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さくら

 卒業生・修了生の皆さん
 あなた方が立ち去って,人気のなくなったキャンパスの中に,今年もまたさくらが咲き始めました。今年から入学式も早まったので,あなたたちが会うことのなかった後輩達の入学式に,さくらが間に合うようです。

 われ亡くて山べのさくら咲きにけり 森澄雄

大学生のためのライティング基礎

 当研究科の「教育・学修支援研究会」の成果として,千葉大学教育GPの予算を得て,『大学生のためのライティング基礎』という教科書を作りました。1クオーター8回の授業でライティングの基礎を学べるようにしたつもりです。

http://www.adjustbook.com/doc/Index/show/us/7520/bk/11355

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 言語コミュニケーション論や古典レトリックを基本にしながら,コメントカードから学術論文に至るライティングの基礎的な考え方を概観できるようしたもので,類書とひと味違うものが出来たのではないかと密かに自負しています。どうかご意見をお寄せ下さい。
 『大学生のためのプレゼンテーション基礎』を続編として準備していますが,まだ試行版の段階です。

入学おめでとうございます

 昨日4月5日(火)は,大学院と学部の入学式が続けてあり,さらに並行してガイダンスが行われ、夕方には歓迎会など,あわただしい一日でした。年々日程が厳しく、忙しくなります。

 あらためまして,みなさんご入学おめでとうございます。
 寒々しい曇天だったのは残念でしたが,桜が満開なのがうれしいことでした。

 この逆風の時代に,人文社会科学を志して集ってくださった皆さんに,ガイダンスのはじめにお願いをいたしました。専門の勉強が進み,面白くもなり,難しくもなり,誇りも感じるようになると,つい自分の分野に引きこもりがちです。学際性涵養のためにちょっとでも離れた分野の履修をすすめられると,無駄なことを勉強させられている,というような気持になったりします。
 それではこの時代に人文社会科学を敢えて選んだ心意気が泣きます。
 どんどん雑学をつけ,何にでも関心を持ち,面白がり,隣近所のことに首を突っ込み,遠くまで道場荒らしに出かけ,他流試合でたくましく育ってください。
 それだけがんばると,小さくても充実した開花や結実を得られます。人社研棟前の自慢の小桜が,今年も満開です。

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Universitas Indonesia

 授業が始まり,あっという間に1週間が経ちました。天候が不順で,風邪気味の人が多いのが心配です。
 インドネシア大学から文学部長・法学部長・経済学部長など錚々たる幹部の皆さまが来校され,渡辺理事や酒井法政経学部長と応対させて頂きました。インドネシア大学とは工学部に交流実績がありますが,今後人文社会科学分野にも交流を進められれば良いと思います。

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プロジェクト論文集

私どものプロジェクト論文集ができました。3月末にはできておりましたが、ご報告が遅れました。同僚の先生方に貴重なご投稿をいただきました。どうもありがとうございました。おかげさまで院生たちにとって栄えある発表の場となりました。

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テムズ川を舞台に

 アガサ・クリスティ(1890-1976)を嗣ぐミステリーの女王として,ルース・レンデル(1930-2015)とP.D.ジェイムズ(1920-2014)が覇を競っていたものでしたが,近年相次いで亡くなりました。底意地の悪い人間観を基底においた救いのない犯罪小説のレンデルか,深すぎる思想性と濃密な人間描写が中心でミステリーと呼べるかどうかぎりぎりの犯罪小説のジェイムズか。好みの分かれるところでしょうが,私は大のジェイムズ・ファンであったものの,やはり大好きな都筑道夫(1929-2003)が朝日新聞紙上で推薦していたので手に取ったレンデルの『ローフィールド館の惨劇』の衝撃も忘れがたいものです。
 ジェイムズが1994年に発表した『原罪』という長編があります。「この小説はテムズ川を舞台にしています」と作者自ら述べます。テムズ河畔にある名門出版社の新社長が奇怪な殺され方をします。重苦しい歴史と暗い人間関係が生み出した事件だったのですが,この物語は,人材派遣会社から速記タイピストの女性,まだ19才のマンディ・プライスがこの出版社に派遣されてくるところから始まります。名門出版社の伝統ある社屋とはマッチしない派手な格好をしていても,マンディはとても有能でした。
 
マンディの母親はマンディが六歳の時に家出した。マンディ自身も十六歳の誕生日を待ちかねるようにして、親の責任とは子供に作らせる一日二回の食事と衣服を与えるだけだという観念しかない父親の許を去った。


マンディの履歴書、それにマンディ自身も、そのエキセントリックな外見に反して、軽い印象を与えたことはない。この点に関してマンディは国語教師のチルクロフト先生に感謝しなければならない。十一歳の反抗期の生徒を前にして、チルクロフト先生はこう言った。「口を開く度に損をしないように、自分の国の言葉をわかりやすく、正確に、それなりに美しく書き、話す勉強をします。十六歳で結婚して、公営アパートで子供を育てる生活に甘んじたくないなら、言葉が必要になります。一人の男性、あるいは国に養ってもらってそれで充分と満足するにしても、市役所や区役所の社会事業課や保健社会保障省と渡り合うには言葉は一段と必要でしょう。とにかく勉強するしかありません」


 決して主要な登場人物ではないはずのマンディに,これだけの(実際にはこれを遙かにしのぐ量の)設定と描写があてがわれているのです。バジル・バーンスティン流の社会言語学的知見が,見事に形象化されています。国語教育というものの痛々しい基礎が,しかし力強く提示されています。
 言葉の教育や学修支援に携わる者の端くれとして,エキセントリックな外見をし,ヤマハのバイクにまたがって職場に現れ,きちんと仕事をこなして見せる,マンディのような人に自分の持てるものを伝え,未来を託せたら,そんな幸せなことはないと思います。
 私にとってジェームズの作品は,こういう発見に満ちているのです。

An Unsuitable Job for a Woman

 昨日趣味に走ってP.D.ジェイムズのことを書かせてもらったら,悪いことはできないもので,「日経新聞」にミステリー作家の有栖川有栖が連載している「ミステリー国の人々」でやはり昨日P.D.ジェイムズが取り上げられていました。さすがの有栖川有栖,何時もながらの気取らず,優しく,滋味深い書きっぷりで,当方が赤面することしきりです。
 この時期,フレッシュマンたちに向けて有栖川有栖はジェイムズの名作『女には向かない職業 An Unsuitable Job for a Woman』(1972)を元気の出る本として薦めます。複雑な生い立ちで苦労した22歳の女性コーデリア・グレイが,ひょんなことから「女には向かない職業」である探偵をつとめることになり,失敗を繰り返しながらけなげに人生を切り開いていくのです。まだサラ・パレツキー描くところ女性探偵V.I.ウォーショースキーなど想像もつかなかった時代です。
 これだけでも随分粋な忠告なのに,有栖川有栖はこの連載エッセイでそれ以上のわざを見せます。ジェイムズといえばやはりあの渋いダルグリッシュ警部。(私はどうしてもロス・マグドナルドの顔が浮かぶのですが,悪趣味ですかしら)孤独で寡黙な紳士で,詩人で,フェミニストで、もう言うことなしの理想的なロマンスグレーというやつです。ただし信仰厚い人で,色恋の冒険も含めて遊びは得意ではないのです。フレッシュマンを迎える上司の皆さんは,ぜひダルグリッシュ警部を見習ってください,と有栖川有栖は「フレッシュな」上司たちにもジェイムズを薦めて見せるのでありました。

異文化理解

 文化人類学者のマーヴィン・ハリス (Marvin Harris 1927-2001) の著書に,文化人類学の初歩の授業で彼が行った異文化理解の指導方法が紹介されていました。日本からイナゴの佃煮を取り寄せておき,「全部食べるなよ,後の者の分も残しておけよ」と言って教室に集まった学生達に回すのだそうです。昆虫を食べる,ということで学生達が受ける衝撃と嫌悪は凄まじいもので,断固として拒否し,昆虫を食べるということ自体が狂気の沙汰だと言って憚らない学生も多くいるということでした。今日では,世界の食糧危機を救うのは昆虫食だという主張がかなりの支持を受け,新案の昆虫料理試食会なども開催されていますから,時代は移り変わるものだと思いますが,とは言っても,昆虫食そのものが世界中でそんなに抵抗なく受け入れられるようになったわけでもありますまい。昆虫食は,行われているところでは別に昔から行われていたわけで,ヨーロッパやアメリカ大陸でも例外ではないのですが,それでも昆虫食の文化を持たない者が,昆虫食の文化に対して抱く心理的抵抗はとても大きい。このような,自分ではどうしようもない異文化に対する心理的抵抗や拒否感とまず直面してみることから,自らの文化を反省し,異文化理解を学んでいくのは,少々乱暴な方法ではあるかも知れませんが,有効であると思います。
 私が授業で時々使っているのは,ドイツ語でいうLakritz,日本ではリコリス(licorice)と英語名の方で知られている伝統的な甘味料です。漢方の方で甘草と呼ばれ,実際薬臭いものですが,コーラやルートビアやドクターペッパーなどの飲み物だけでなく、醤油などの調味料に使われていて,本当は日本人にもなじみ深いものであるはずなのです。日本でもファンが多いグミというお菓子は,もともとドイツのハリボー社によって1920年代に発売され始めたもので,グミベアといってクマのぬいぐるみの形をしたものが知られています。これはフルーツ味ですが,実はハリボー社はこの直後にリコリス入りの黒いグミも発売し,これも大当たりをとり,今日でも売れ筋なのです。漢方薬臭いこの黒いグミなど日本では人気がなく,滅多に手に入りません。教室の学生に,みんなグミは好きでしょう,といってリコリス入りのグミを回し,これが食べられないようではヨーロッパ文化を本当に理解したことにはなりません,と言うのですが,臭いだけで吐きそうになる学生が続出し,虐待で訴訟沙汰になっても困るので最近はやっていません。

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 私は正直,吐きそうな臭いとは思いません。お若い方はみんな漢方薬に慣れていないのでしょう!実際になれると病みつきになる味で,リコリス愛好者のサイトも見つけました。
 後は北欧のリコリス入りキャンデーであるサルミアッキも使ってみましたが,まあ大体同じような結果でありました。なかなか異文化理解の指導には行き着きません。
 この度前から気になっていたベジマイトやマーマイトが日本アマゾンで簡単に手に入ることを知り,今度はこれを使ってみようかと思っています。ビールの発酵カスから作ったペーストで,昔のヨーロッパでは普通によく食べられていたそうですが,いまは特にオーストラリアのソウルフードだそうですね。胃腸薬のわかもとかビタミン剤の臭いで,かなりな塩見ですが,発酵食品独特のコクがあり,私はたいへん気に入りました。調べたところ,ベジマイトを使ったレシピ集などがネットで見つかり,カルボナーラ・スパゲティに混ぜると美味しいなどとありましたので,早速やってみて,美味しさを確認した次第です。今度教室で異文化理解のためにベジマイトを塗ったクラッカーを一枚ずつ配ってみたいのですが,TAの院生から厳しく反対され,実行が難しいようです。

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 偏見とたたかう道は険しいものです。これこそ異文化理解を学ぶ正道でありましょう。