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J.S.ミルの大学教育論

 もう7月になってしまって,しなくてはならないことは山ほどあるのに,何もできずに慌てるばかりです。
 そんなことを言いながら,ちょっと必要があってJ.S.ミルのテクストを調べていたら(経済学にも社会学にも歴史にも関係のないテーマですごめんなさい),『大学教育について』(セント・アンドルーズ大学名誉学長就任講演 Inaugural Address delivered to the University of St. Andrews. 1867)が面白くて,つい仕事そっちのけで読みふけってしまいました。(仕事は必ず夜にいたします!)

"This question, whether we should be taught the classics or the sciences, seems to me, I confess, very like a dispute whether painters should cultivate drawing or colouring, or, to use a more homely illustration, whether a tailor should make coats or trousers. I can only reply by the question, why not both?"

「古典が教えられるべきか、それとも科学が教えられるべきかというこの問題は、実を申しますと、私には、画家は線描画を習うべきか、彩色画を習うべきか、あるいはもっと身近な例でいえば、仕立て職人は上着をつくるべきか、それともズボンをつくるべきかという論争と少しも変わらないように思われてなりません。この論争に対して、私はなぜ両方あってはならないのかと答えることしかできません。」ミル(竹内一誠)『大学教育について』(岩波文庫)


 ミルがここで言っているのは,例によってラテン・ギリシャのことだろう,とうんざりなさるかもしれないが,現代語もぼやぼやしていられません。へえ,お宅じゃ,まだドイツ語なんかやってるんですか,などと言われていたのさえ過去のことで,EUからイギリスが脱退ということになりましたので,英語すらEUの共通語から外されることになるご時世ですから。

院生と研究科長の懇談会

 あっという間に一年たってしまったという実感です。学内限定ですが,みなさんどうぞご参加ください。

院生と研究科長との懇談会ポスターH28.jpg


体当たりのコミュニケーション

 天明2年(1782)年,駿河沖で遭難し,7ヵ月の漂流の末,ロシアに漂着し,10年にわたる艱難辛苦の末にエカチェリーナ女帝に謁見までして帰国を果たした伊勢鈴鹿の人大黒屋光太夫一行の物語は,映画化もされた井上靖『おろしゃ国酔夢譚』(1968)や吉村昭『大黒屋光太夫』(2003)などでつとに名高いものです。17名で出発して,帰国できたのが2名という悲劇で,帰国後は幕府から小石川の植物園に住居をあてがわれ,静かに余生を送ったそうです。最新の研究では鎖国の禁を破った罪人として監禁されていたわけではなく,比較的自由に暮らせていたようですが,それでもやはり一時的な帰郷以外には故郷の伊勢に戻ることは許されなかったようです。
 幕命によって桂川甫周が大黒屋光太夫から聴取した聞書『北槎聞略』を読むと,体当たりで命がけの異文化コミュニケーションを生き延びた人の苦労がひしひしと伝わってきます。

 此嶋に半年余も居けれども,とかくに言語通ぜざりしが,魯西亜人等おりおりに,漂人等が衣装調度などを見ては,ヱト・チョワといふ事,耳にとまりける。是はほしきといふにや,よしあしきといふにや,又はむさきなどと笑ふにやと,其心を得ざりしに,磯吉思ふやう,何れにもこなたよりもいふて見ば分る事もあらんと,をりふし側に鍋の有りけるをゆびさして,ヱト・チョワといひければ,コチョウと答ける故,さては何ぞと問事よと心得て,夫よりは聞ままに書記しける程に,言語もよほどおぼえ、少しの事は弁ずる様に成りけるまま,手を束ねて徒に月日を送んよりはと,嶋人にうちまぢり,ナキリイシ,ナッキスカ,チュク,ウニヤキなどといふ島々に渡り,海獺を捕る手伝をなして糊口し居けるが・・・


 また私が特に感心したのは,本書に添えられた多くの図版の中でも,「魯西亜國字母」という手書きの図版で,アルファベットと筆記体の大文字小文字,日本語の50音の転写などは良いとして,「反切連綿法」という音節形成の一覧があることでした。これはサンスクリット語を学ぶための悉曇学の方法だろうと思うのですが,ロシア語を初めて日本語で記述したこの図版に転用されているらしいのは,当時オランダ語の学習や文法記述にはこのような用語と方法を使っていたのでしょうか。光太夫たちがこうやってロシア語を学んだとして、この方法自体を知っていたのでしょうか。驚嘆と疑問は尽きません。
 異文化交流と言い,翻訳と言い,そもそもコミュニケーションそれ自体が,体当たりの実践を通じ,その中でのみ成立するのだという格好の実例だと思います。認識が対象性を獲得するためには,という古い議論をしみじみ思いだします。北の荒海に漂う船の物語に学ぶべきことはたくさんあります。

歴史はないが未来はある

 「プレゼンテーション基礎」の授業で,「私を変えたひと言」というお題で5分のプレゼンテーションの計画を立て,4枚のスライドを作る,という課題を与えてみました。「私を変えた」という指定を頑なに真っ正直に受け取り,20年程の自分の人生を思い返し,自分に大きな影響を与えた「名言」を探しあぐねて四苦八苦する様子はまだまだ初々しい学部1年生でありました。「社会的役割とコミュニケーションの主体性・当事者性」という問題に気付いてもらうのが目的の課題だったのですが,この先にさらに工夫がありました。とはいえ,熱心な学生諸君のおかげで実り豊かだったこの授業のことについては,いずれ別の場所で詳しく報告することになると思います。
 学生諸君が取り上げた「名言」のリストも極めて興味深いものですが,これもまたの機会にします。案外,世界の名言金言はありませんでした。ディズレーリとディズニーとジョブズくらいだったかな。けれども1つだけここでご紹介しておきたいと思います。
 入学式で学部長に言われた言葉が感動的だったと,名セリフをあげてくれた学生がおりました。新設学部だから私たちに歴史はないが,洋々たる未来がありますと,学部長は新入生諸君を鼓舞したそうで,新入生の方もしっかり学部長の心を受け止めていたというわけです。式辞なんてどうせスーパーマーケットのBGMにも如かないなどと投げやりに思っちゃいけないのです!
 国際教養学部長,聞こえていますか?おめでとう。新入生諸君も,あなたも。

学術語学支援プログラム実施中!

 論文準備や研究が進む中で,「ああ,学んでおけばよかった!」「もっと出来るようにしておけばよかった!」と後悔する外国語があります。本研究科ではこういう学術語学を改めて学修するための特別学修支援プログラムである, "Auxilia Grammatica"「 学術語学支援プログラム」を実施しています。必要な時,可能な形で学修可能なように,授業内容も授業形態も時間帯もすべてオンデマンドで,教師と希望学生の相談で決まります。夏休みはこのプログラムを利用するチャンスですので,どうぞお気軽に教育支援室か科長室までご連絡ください。すぐにでも対応できるのは:

 *英語文献講読
 *ドイツ語入門
 *ドイツ語文献講読
 *フランス語入門
 *フランス語文献講読
 *ラテン語入門
 *ラテン語史料講読
 *古代ギリシャ語入門
 *古代ギリシャ語史料講読
 *サンスクリット語入門
 *サンスクリット語史料講読
 *ハンガリー語入門
 *ハンガリー語文献講読

ですが,他に要望があれば,準備できますので,相談してください。
 今のところ単位にはなりません。
 目下ハンガリー語入門コースが稼働中です。

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 昨年は夏休みに集中で「フランス語入門」「ラテン語入門」が、後期に週一で「ドイツ語文献講読」が開講されました。

 ちなみに本プログラムを auxilia 「援軍・補助軍」と呼びます。皆さんの専門研究の学修支援こそ,天下無敵,世界を恐れさせたあの legio 「軍団・正規軍」だと考えた上での位置づけです。(皆さんの指導教員のことですよ!)

 英語や日本語のライティング・プレゼンテーションを訓練するための「学術リテラシー支援プログラム」"Auxilia Rhetorica" は,学期中の授業で行っていますが,要望があれば,オンデマンドで休暇中に開催することも可能です。相談してください。

 この2つのプログラムに対応して,教科書も逐次電子媒体で刊行いたします(無料)。No.1の『大学生のためのライティング基礎』は既に刊行し,配布中ですが :
http://www.adjustbook.com/doc/Index/show/us/7520/bk/11355
本年度中に『プレゼンテーション基礎』や『サンスクリット語文法概略』『ラテン語文法概略』等を刊行の予定です。